
2026年診療報酬改定で医師の年収はどうなる?「収入減」に備えるための資産防衛術
2024年度の診療報酬改定は、医療界に大きな衝撃を与えました。全体としてはプラス改定(+0.88%)であったものの、その内実は「賃上げ対応」に重点が置かれ、特に内科系クリニックにおいては「特定疾患療養管理料」の見直しにより、実質的な減収を余儀なくされたケースも少なくありません。
そして、次なる節目となるのが「2026年度診療報酬改定」です。
2025年、団塊の世代がすべて75歳以上となる「2025年問題」がピークを迎え、日本の社会保障費は限界に達します。その翌年に行われる2026年改定は、単なる微調整ではなく、「医療提供体制の根本的な構造転換」を促す厳しい内容になることが予想されます。
医師=高収入・安泰という図式は、もはや過去のものとなりつつあります。物価高騰によるコスト増、働き方改革による残業代の減少、そして診療報酬の適正化(実質引き下げ)。この「三重苦」の中で、医師が自身の資産と生活水準を守るためにはどうすればよいのか。
本記事では、2024年改定の分析を出発点に、2026年改定の予測、医師の年収への具体的な影響、そして今すぐ取り組むべき「資産防衛術」について、徹底的に解説します。
目次[非表示]
- 1.2024年改定の振り返りと「2026年」への予兆
- 1.1.「賃上げ」主導のプラス改定の罠
- 1.2.「生活習慣病管理料」厳格化の衝撃
- 2.2026年診療報酬改定の焦点とリスク
- 3.【具体試算】医師の年収はこう変動する
- 4.医師を襲う「インフレ税」と「増税」の正体
- 4.1.現金の実質価値目減り(インフレリスク)
- 4.2.高所得者層への増税圧力
- 5.収入減時代を生き抜く「資産防衛術」
- 5.1.1. 「法人化」による税のコントロール(開業医・副業あり勤務医)
- 5.2.2. 「新NISA」「iDeCo」のフル活用と「全世界投資」
- 5.3.3. 不動産投資による「減価償却」と「他人資本」の活用
- 5.4.4. 人的資本の再定義(スキルシフト)
- 6.ライフステージ別・2026年に向けたアクションプラン
- 6.1.20代〜30代:【種まき期】
- 6.2.40代〜50代:【拡大・防衛期】
- 6.3.60代以降:【出口戦略・継承期】
- 7.まとめ
2024年改定の振り返りと「2026年」への予兆
2026年を予測するためには、直近の2024年改定で「国が何を目指したか」を正確に理解しておく必要があります。
「賃上げ」主導のプラス改定の罠
2024年改定の最大のトピックは、看護師やコメディカルなどの「医療従事者の賃上げ」でした。「ベースアップ評価料」の新設などにより、スタッフの給与を引き上げる仕組みが導入されましたが、これはあくまで「スタッフのため」の原資であり、医師自身の可処分所得が増えるわけではありません。
むしろ、賃上げを行わなければ人材確保が困難になる中、この評価料の届出事務負担や、算定要件の厳格さが経営を圧迫する要因にもなっています。
「生活習慣病管理料」厳格化の衝撃
多くの開業医を震撼させたのが、高血圧・脂質異常症・糖尿病における「特定疾患療養管理料」の廃止と、「生活習慣病管理料(Ⅱ)」への移行です。
これまで処方のみで算定できていた管理料が、療養計画書の作成や患者の署名を必須とする厳しい要件に変更され、かつ点数自体も引き下げられました。これにより、従来型の外来診療を行っていたクリニックでは、「手間は増えたのに売上は減る」という現象が起きています。
この流れは2026年も継続、あるいは加速すると見るのが自然です。国は「漫然とした投薬」を締め付け、「質の高い管理」と「データに基づく診療」のみを評価する姿勢を鮮明にしています。
2026年診療報酬改定の焦点とリスク
2026年改定は、2040年(高齢者人口がピークを迎え、現役世代が激減する年)を見据えた改革のステップとなります。予測される主な論点は以下の3点です。
1. 医療DXの強制とインセンティブの選別
マイナ保険証の利用促進、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなど、「医療DX」への対応がより厳格に求められます。
これまでは「導入すれば加算」というインセンティブ形式でしたが、今後は「対応していなければ減算(または算定不可)」というペナルティ形式に移行する可能性があります。システム導入コストは経営を圧迫しますが、対応しなければ収益基盤そのものを失うリスクがあります。
2. 「かかりつけ医機能」の制度化と要件厳格化
2025年4月より改正医療法が施行され、「かかりつけ医機能報告制度」が始まります。2026年改定では、この報告制度と連動し、診療報酬上の評価が大きく再編されるでしょう。
具体的には、在宅医療、夜間・休日対応、介護連携などを包括的に行う医療機関への評価が手厚くなる一方、専門外来のみを行うクリニック(特に軽装備の都市型クリニック)への風当たりは強くなると予想されます。
3. リフィル処方箋と長期処方の拡大
医療費適正化の切り札として導入されたリフィル処方箋ですが、2026年に向けてさらに普及が推進されます。患者にとっては通院回数が減りメリットがありますが、医療機関にとっては「再診料の減少」に直結します。
外来患者数が減少し、かつ単価も抑制される中、薄利多売モデルの維持は極めて困難になるでしょう。
【具体試算】医師の年収はこう変動する
では、これらの環境変化は、具体的に医師の財布にどのような影響を与えるのでしょうか。勤務医と開業医、それぞれのモデルケースで「年収へのインパクト」を試算します。
ケース①:勤務医(30代後半・中堅医師)
2024年4月から本格適用された「医師の働き方改革」により、時間外労働の上限規制(A水準:年960時間)が設けられました。
現状(改定前):
基本給:1,000万円
当直・残業代:400万円
アルバイト:300万円
総年収:1,700万円
2026年以降の予測:
残業代の減少:
上限規制の遵守により、残業代が月5万円(年60万円)減少。
アルバイト単価の下落:
多くの病院が医師派遣を絞り込むため、好条件の寝当直バイトが減少。
スポット勤務等の収入が年50万円減少。
基本給の微増:
病院側が人材確保のために基本給を上げる可能性があるが、
経営難により大幅アップは期待薄(年+20万円程度と仮定)。
【試算結果】
減少額:△110万円
増加額:+20万円
総年収:1,610万円(約90万円のダウン)
手取り額(可処分所得)に換算すると、約60万円程度の減少となります。「忙しさは変わらないのに、給料だけが減る」というジレンマに陥る可能性が高いシナリオです。
ケース②:開業医(内科クリニック・院長)
生活習慣病患者をメインとする、従来型の内科クリニックのケースです。
現状(改定前):
年間医業収益:8,000万円
経費(人件費・家賃等):5,000万円
院長年収(利益):3,000万円
2026年以降の予測:
診療報酬のマイナス影響: 生活習慣病管理料の厳格化、
リフィル処方箋による来院回数減により、医業収益が5%減少(△400万円)。
人件費の高騰: 賃上げ要請や最低賃金の上昇に伴い、
スタッフ給与のベースアップが必要。経費が200万円増加。
物価高・システム投資: 光熱費、医療材料費の高騰、
医療DX対応のシステム更新費などで経費が100万円増加。
【試算結果】
医業収益:7,600万円
経費:5,300万円
院長年収:2,300万円(700万円の大幅ダウン)
売上の減少とコストの増加が同時に襲うことで、利益(院長の取り分)は売上減少幅以上に大きく削られます。これが「開業医のレバレッジリスク」です。
医師を襲う「インフレ税」と「増税」の正体
診療報酬改定による「額面収入の減少」に加え、医師はマクロ経済的な逆風にも晒されています。それが「インフレ」と「増税」です。
現金の実質価値目減り(インフレリスク)
日本でも消費者物価指数が2〜3%上昇するインフレ時代に突入しました。
仮に銀行口座に5,000万円の預金があり、年2%のインフレが10年間続いたとします。
10年後の実質価値は、現在の購買力で言うと約4,100万円相当まで目減りします。
「忙しいからとりあえず普通預金」という医師の行動様式は、このインフレ局面において「確実な資産減少」を意味します。
高所得者層への増税圧力
社会保険料の上限引き上げ、児童手当の所得制限(一部撤廃されたものの高所得者は依然恩恵が薄い)、そして将来的な金融所得課税の強化議論など、高所得者層を取り巻く税制環境は厳しさを増しています。
特に、勤務医の給与所得は「ガラス張り」であり、節税の余地が極めて限定的です。額面の年収を維持できたとしても、手取り額は確実に目減りしていく構造にあります。
収入減時代を生き抜く「資産防衛術」
「診療報酬に依存した一本足打法」では、もはや資産を守れない時代です。2026年改定を見据え、医師が今すぐ取るべき資産防衛アクションを具体的に提案します。
1. 「法人化」による税のコントロール(開業医・副業あり勤務医)
もっとも効果的な防衛策は、やはり税制の活用です。
すでに開業されている先生はもちろん、アルバイト収入や講演料などの副収入が多い勤務医の先生も、「マイクロ法人(資産管理会社)」の設立を検討すべきフェーズにあります。
所得分散効果:
家族を役員にして所得を分散することで、超過累進税率の適用を避ける。
経費の活用:
個人では認められない範囲(社宅、出張手当、生命保険など)での経費計上が可能。
社会保険料の適正化:
医師国保と協会けんぽの使い分けや、役員報酬の設定による社会保険料の圧縮。
2. 「新NISA」「iDeCo」のフル活用と「全世界投資」
「投資は怖い」と言っている猶予はありません。インフレに対抗するためには、資産を「成長する場所」に置く必要があります。
iDeCo(個人型確定拠出年金):
所得控除のメリットが大きいため、限界税率が高い医師こそ最大の恩恵を受けられます。
月額の掛金が小さくても、数十年単位では数百万円の節税効果になります。
新NISA(つみたて投資枠+成長投資枠):
生涯1,800万円の非課税枠は、医師夫婦であれば3,600万円の「非課税資産」を作れることになります。
投資先:
日本円だけに依存せず、S&P500(米国株)やオール・カントリー(全世界株)など、
グローバルな資産に分散させ、円安リスクとインフレリスクをヘッジします。
3. 不動産投資による「減価償却」と「他人資本」の活用
高年収の医師にとって、不動産投資は依然として強力な選択肢です。
信用力の活用:
医師という属性は、銀行融資において最強のカードです。
低金利で資金を調達し、レバレッジを効かせた運用が可能です。
減価償却の節税効果:
特に築古木造物件や米国不動産(税制改正で一部制限されましたが、
依然として建物割合の高い物件は有効な場合あり)などの減価償却費を活用し、
本業の給与所得と損益通算することで、所得税・住民税を圧縮します。
私的年金の構築:
ローン完済後は、家賃収入がそのまま「自分年金」となります。
公的年金の上限がある医師にとって、定年後の安定収入源は精神的な支柱となります。
4. 人的資本の再定義(スキルシフト)
金融資産だけでなく、「稼ぐ力(人的資本)」のポートフォリオも見直す必要があります。
専門性の深化とシフト:
単なる一般診療だけでなく、今後需要が高まる「在宅医療」「緩和ケア」「認知症ケア」
「リハビリテーション」などの領域へスキルを広げる。
経営・マネジメントスキル: 勤務医であっても、病院経営に参画できるスキル
(MBA、医療経営士など)を持つ医師は希少価値が高く、給与交渉で有利になります。
産業医・自由診療: 保険診療に依存しない収入源を持つこともリスク分散になります。
ライフステージ別・2026年に向けたアクションプラン
最後に、年代別のアクションプランをまとめます。
20代〜30代:【種まき期】
アクション:
専門医取得などのスキルアップを最優先しつつ、iDeCoとつみたてNISAを少額からでも開始する。
意識:
「貯蓄」から「投資」への意識改革を早期に行うことで、複利効果を最大化する。
注意点:
働き方改革で残業代が減る分、自己研鑽とアルバイトのバランスを慎重に見極める。
40代〜50代:【拡大・防衛期】
アクション:
子どもの教育費がかさむ時期だが、もっとも収入が高い時期でもある。
不動産投資や法人化を検討し、節税と資産拡大を同時に進める。
意識:
「高収入=高支出」の生活レベルを見直し、老後資金の積み増しを加速させる。
注意点: 開業医の場合、クリニックの承継やM&A(売却)も視野に入れた出口戦略を描き始める。
60代以降:【出口戦略・継承期】
アクション: 資産の取り崩しシミュレーションを行う。
リスク資産(株式など)の比率を調整し、守りの運用へシフトする。
意識: 健康寿命を意識し、いつまで働くか(完全リタイアか、ゆったり勤務か)を決める。
注意点: 相続税対策が急務となる。資産が多すぎる場合は、生前贈与などを計画的に実行する。
まとめ
2026年の診療報酬改定は、医師にとって厳しいものになる可能性が高いです。しかし、悲観する必要はありません。
「かつてのような聖域ではなくなった」という現実を直視し、適切な情報収集と行動を起こせば、十分に豊かさを維持し、資産を築くことは可能です。
重要なのは、「国(診療報酬)が自分の生活を守ってくれる」という受動的な姿勢を捨て、「自分の資産は自分で守り、増やす」という能動的な経営者マインドを持つことです。
診療報酬のトレンドを読み、求められる医療機能へシフトする。
税制優遇制度をフル活用し、手取りを最大化する。
インフレに負けない投資を行い、お金に働いてもらう。
この3つをバランスよく実行できる医師だけが、2026年以降の激動の時代を、経済的な不安なく乗り越えていけるでしょう。
まずは、ご自身の現在のキャッシュフローと資産状況を「見える化」することから始めてみませんか? 具体的な対策が必要な場合は、医師専門のファイナンシャルプランナーや税理士への相談をお勧めします。未来への備えは、早ければ早いほど、その効果を発揮します。
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