
医師の法人化、来年1月スタートなら 「秋」が検討のタイムリミットである理由
「法人を作れば税金が減る」とは聞くが、いつ動けばいいのか分からない
勤務医の先生からよくいただく疑問に、結論から順に答えます。
来年1月から法人で受け取るには、設立日から逆算して秋に動き出す必要があります。
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医師の法人化の効果は、いつから始まるのか
法人化の効果は、法人を設立した日(登記を申請した日)から始まります。法人は設立登記の申請日が設立日になり、それより前の収入は法人のものにはなりません。つまり、今年の税金を法人化で下げることはできず、効果が出るのは設立した後の収入からです。
この性質から、設立日の選び方が重要になります。たとえば、12月に設立すると、最初の事業年度(第1期)が1か月前後と短くなります。法人は赤字でも毎年「均等割」という最低限の地方税(東京23区の資本金1,000万円以下の法人で年7万円)がかかり、決算申告の手間と税理士費用も発生します。せっかく設立したのに、1か月分の決算のためだけにこれらの負担を負うのは、効率的ではありません。
そのため、来年から法人で収入を受け取りたい場合は、年明けの1月初旬(法務局の業務再開日)に登記を申請して設立するのが一般的です。この日を逆算の起点にすると、勤務先の確認、税理士の選定、設立内容の決定、書類の準備に必要な期間が、おおよそ2か月分あることがわかります。秋の10月から11月が、検討を始めるべき時期になる理由です。
決算月(事業年度の締め日)も、設立時に決めます。1月に設立すれば、12月決算にすることで、最初の事業年度をちょうど12か月にできます。ただし、決算月の選び方には、収入が入る時期や税理士の繁忙期なども関わるため、税理士と相談して決めるのが安全です。
来年1月に法人をスタートするには、いつまでに何をすればよいか
来年1月初旬の設立を目指す場合の、逆算スケジュールは次のとおりです。
10月は、勤務先の副業・兼業規程の確認と、税理士探しが中心です。多くの病院では、兼業や法人の役員就任に届出や許可が必要です。許可の取得に1〜4週間かかることもあるため、最初に確認します。同時に、医師の税務に詳しい税理士を2〜3人あたり、顧問契約を結ぶ候補を決めます。また、法人で受け取る予定の収入(講演・執筆・コンサル・不動産など)の棚卸しも、この時期に行います。
11月は、設立内容の決定です。合同会社にするか株式会社にするか、商号(会社名)、事業目的、役員構成、資本金、決算月を決めます。合同会社は設立費用が安く(登録免許税が最低6万円)、運営も簡素なため、勤務医の副収入の受け皿としてよく選ばれます。株式会社は、登録免許税が最低15万円に加え、定款の認証費用(数万円)がかかりますが、対外的な信用を重視する場合に選ばれます。
12月は、書類の準備です。定款を作成し(株式会社は公証人の認証が必要)、資本金を発起人の口座へ払い込み、登記申請書類を揃えます。同時に、法人の銀行口座の開設準備も進めます。法人口座は審査があり、開設に2〜4週間かかることがあるため、設立後すぐに必要な場合は早めの準備が必要です。年末は法務局・公証役場・金融機関が混み合うため、書類は12月中旬までに揃えておくと安心です。
年始は、法務局の業務再開日(1月4日ごろ)に登記を申請します。申請書類が揃っていれば、その日が設立日になります。
設立後は、各種の届出が必要です。税務署への法人設立届出書は設立から2か月以内、給与支払事務所等の開設届出書は1か月以内が目安です。青色申告承認申請書は、設立から3か月以内、または第1期の事業年度終了日の前日のいずれか早い日までに提出します。これを逃すと、赤字の繰越控除などの青色申告の特典を、第1期から受けられなくなります。役員報酬は、原則として毎月同額(定期同額給与)にする必要があり、設立から3か月以内に金額を決めます。届出の期限は制度改正で変わることがあるため、税務署または税理士で最新の期限を確認してください。
勤務医でも法人は作れるのか:医療法人・MS法人・資産管理会社の違い
結論として、勤務医が設立できるのは、一般の会社法に基づく合同会社・株式会社です。「医療法人を設立したい」と検索する先生がいますが、医療法人は、病院・診療所・介護老人保健施設などを開設する場合の法人形態で、勤務医が個人として設立することはできません。
MS法人(メディカルサービス法人)は、クリニックなどの医療機関に対して、事務・経営管理・物品の供給・不動産の賃貸などの周辺サービスを提供する会社を指す言葉です。医療機関を運営する医師が、所得分散などのために設立するもので、医療機関を持たない勤務医には、通常は該当しません。
勤務医が設立する法人は、一般に「資産管理会社」や「プライベートカンパニー」と呼ばれます。不動産・金融資産を保有したり、講演料・原稿料・コンサル料などの副収入を受け取る受け皿として使うものです。名称が違っても、法的には合同会社か株式会社であり、医療法人やMS法人とは別の位置づけです。
法人には何を入れられて、何を入れられないのか
法人に入れられるのは、医療行為以外の収入です。具体的には、講演料、原稿料・執筆料、学術監修料、コンサルティング料、不動産の賃料などで、法人名義で契約し、法人の業務として行うことが前提です。個人名義の契約のまま、入金先だけを法人にしても、税務上は認められません。
入れられないのは、診療行為そのものによる収入です。診察・手術・当直などの医療行為に対する報酬は、医師個人に帰属し、法人で受け取ることはできません。勤務先の病院から支払われる給与も同様です。外勤や当直の給与を法人経由にする設計は、医師法・健康保険法上も、雇用契約の実態からも、成立しません。
したがって、勤務医が法人化で得られるメリットの大きさは、「医療行為以外の収入がどれだけあるか」でほぼ決まります。給与のみの勤務医には、法人に入れる収入がなく、維持コストだけが発生します。
年収1,500万円の勤務医で試算すると、税負担はどれだけ変わるのか
年収1,500万円の勤務医が、医療行為以外の副収入(経費を引いた利益)を得ているケースで比較します。個人で受け取った場合、追加の所得には、所得税33%(復興特別所得税を含めて約33.7%)と住民税10%を合わせた約43.7%がかかります。法人で受け取った場合は、法人の実効税率(東京23区の中小法人の目安で、所得400万円以下が約21%、400万〜800万円が約23%、800万円超が約34%)が適用され、これに均等割7万円が加わります。
※概算モデルです。維持コストは税理士の顧問料と決算申告料の目安(月2〜3万円+決算10〜20万円程度)。法人に残した利益を将来、個人に戻す際の課税は含みません。
この試算から、副収入(利益)が年200万円前後では、税負担の差が維持コストと拮抗し、設立しても得になりにくいことがわかります。年300万円前後から差引きがプラスになり、500万円以上で明確に有利になります。
ここで必ず理解しておくべきことがあります。この差の多くは、税率の差による課税の繰延べです。法人に利益を残している間は、低い税率で課税されますが、その利益を個人に戻すとき(役員報酬、配当、役員退職金など)に、改めて課税されます。出口まで含めた設計をしないと、期待したほど手取りは増えません。法人化は、「税金がなくなる」仕組みではなく、「課税のタイミングと税率を設計する」仕組みです。
配偶者を役員にして、所得を分散できるのか
法人から配偶者に役員報酬を支払い、世帯全体の税負担を下げる設計は、よく紹介されます。確かに、配偶者の税率が低ければ、世帯としての負担は下がります。ただし、配偶者が実際に法人の業務に従事していることが大前提です。名前だけの役員や、業務の実態に見合わない高額な報酬は、税務調査で否認され、経費として認められないリスクがあります。
また、役員報酬を支払う場合、法人は健康保険・厚生年金への加入義務が生じる場合があります。配偶者が現在、勤務医の被扶養者になっている場合は、扶養から外れて自分で保険料を負担することになり、手取りが想定より増えないことがあります。報酬の金額は、税負担だけでなく、社会保険料や扶養の影響まで含めて決める必要があります。
法人化すべき人、しなくてよい人の判断基準
法人化を検討すべき人の典型は、次のような勤務医です。医療行為以外の収入(講演・執筆・コンサルなど)が年300万円前後以上あり、今後も継続・増加が見込める人。その収入の契約主体を、法人名義に切り替えられる人。不動産収入があり、法人で保有することで所得分散や相続対策の選択肢を広げたい人。法人を数年以上運営する見込みがある人です。
逆に、法人化をしなくてよい、または慎重になるべき人もいます。給与のみで、法人に入れられる収入がほとんどない人。副収入が年200万円未満で、増える見込みも乏しい人。近い将来に開業・転職・引退を予定していて、法人を長期間運営しない人。税理士費用や決算の手間を負担したくない人。勤務先の兼業規程を確認していない人です。
法人化の前に、iDeCo・新NISA・ふるさと納税・医療費控除といった基本の制度を使い切っているかも確認してください。これらの基本を済ませていないまま、法人化を急ぐ必要はありません。
法人化で失敗しやすいポイントは何か
第一に、勤務先の兼業規程の確認漏れです。法人の役員就任や、法人を通じた事業活動が、兼業規程に抵触するケースがあります。無断で進めると、就業規則違反を問われるおそれがあるため、設立前に必ず確認し、必要なら許可を得てください。
第二に、実態のない法人です。法人としての事業内容・契約・業務の実態がなければ、経費や役員報酬が否認されます。第三に、私的な支出の経費計上です。家族との食事や私的な旅行を経費にすることはできません。第四に、設立後の運営負担です。法人は赤字でも毎年決算申告が必要で、帳簿や書類の管理が求められます。第五に、出口の問題です。法人を畳む(清算する)際にも費用と手続きが必要で、内部留保の取り扱いも設計しておく必要があります。
法人設立の具体的な手順と、必要な準備は何か(合同会社の場合)
勤務医の副収入の受け皿として、よく選ばれる合同会社の設立手順を整理します。まず、会社の基本事項を決めます。商号(会社名)、事業目的(講演・執筆・コンサルティング・不動産の賃貸・資産管理など)、本店所在地、代表社員(役員)、資本金、事業年度(決算月)です。事業目的は、将来行う可能性のある事業を含めて、幅広く記載しておくのが一般的です。
次に、定款を作成します。合同会社は、株式会社と違って、公証人による定款の認証が不要で、電子定款であれば収入印紙代もかかりません。そのため、費用を抑えて設立できます。続いて、資本金を、設立者個人の銀行口座に払い込み、通帳のコピーなどを払込証明書の代わりとして用意します。
その後、法務局に、登記申請書、定款、代表社員の就任承諾書、払込証明書、印鑑届書などを提出して、設立登記を申請します。申請した日が設立日です。登記が完了すると、登記事項証明書や、会社の印鑑証明書を取得でき、これらを使って、税務署への届出や、法人口座の開設に進みます。
本店所在地は、自宅にすることが多いですが、賃貸住宅の場合は、賃貸借契約や管理規約で、事業目的の使用が禁止されていないかを確認してください。規約に反すると、トラブルの原因になります。バーチャルオフィスなどを利用する方法もありますが、法人口座の開設審査に影響することがあります。
設立前後の事務は、専門家に任せることもできます。司法書士に登記を依頼すると、報酬は数万円からで、税理士に設立前から相談しておくと、定款の事業目的や決算月、役員報酬の設計が、収入の実態に合ったものになります。手続きそのものより、「何のために、どんな収入を、どの契約で受けるか」の設計のほうが、はるかに重要です。
設立後に、最低限やるべき運営は何か
法人は、設立して終わりではなく、運営の手間がかかります。最も重要なのは、個人のお金と法人のお金を、明確に分けることです。法人の収入は法人口座で受け、経費は法人口座またはカードで支払い、私的な支出を法人から出さないでください。個人が法人のお金を使う場合は、役員報酬や貸付金として、正しく記録する必要があります。
会計は、会計ソフトで日々記帳し、領収書や契約書を保管します。決算は、事業年度の終了後2か月以内に、法人税などの申告と納付を行います(申告期限の延長の特例があります)。赤字でも、毎年申告が必要で、法人住民税の均等割も発生します。多くの場合、税理士に顧問を依頼し、記帳の確認や決算申告を任せます。
消費税は、設立から2年間は、資本金が1,000万円未満であれば、原則として免税事業者です。ただし、取引先の求めなどにより、適格請求書発行事業者(インボイス)の登録を検討する場面があります。講演料などの依頼元が、法人名義のインボイスを求める場合は、登録の要否を税理士に相談してください。
役員報酬を支払う場合は、毎月同額にする必要があり(定期同額給与)、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入手続きも発生します。勤務医本人が無報酬で、配偶者などに報酬を支払う場合も、同様の手続きが必要になることがあります。これらの運営を負担に感じる場合は、法人化の判断自体を見直してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 勤務医が法人を設立する費用はいくらですか?
A. 合同会社は登録免許税が最低6万円、株式会社は登録免許税が最低15万円に加えて定款認証費用が数万円かかり、総額は株式会社で約20万〜25万円が目安です。司法書士に依頼する場合は別途数万円の報酬がかかります。
Q. 設立後の維持コストはどれくらいですか?
A. 税理士の顧問料が月2万〜3万円程度、決算申告料が年10万〜20万円程度に加え、赤字でも法人住民税の均等割が年7万円(東京23区の場合)かかります。年間で40万〜60万円程度を見込んでください。
Q. 資本金はいくらにすればよいですか?
A. 資本金は1円から設定できますが、実務上は100万円前後で設定することが多いです。資本金が1,000万円以上になると、設立初年度から消費税の納税義務が生じるなどの影響があるため、小さく設定するのが一般的です。
Q. 12月中に設立したほうがよいですか?
A. 多くの場合、おすすめしません。12月設立だと第1期が1か月前後と短く、均等割と決算申告の手間だけがかかりやすいためです。年明けの1月初旬に設立し、12月決算にする設計が一般的です。
Q. 当直や外勤の給与を法人で受け取れますか?
A. できません。診療行為に対する報酬は医師個人に帰属し、法人に入れることはできません。法人に入れられるのは、講演料・原稿料・コンサル料・不動産賃料などの医療行為以外の収入です。
Q. 副業禁止の病院に勤めています。法人は作れますか?
A. 法人の設立自体は法律上可能ですが、勤務先の兼業規程に反する可能性があります。設立前に就業規則を確認し、必要なら許可を取ってください。資産管理(不動産・金融資産の保有)のみを目的とする法人の扱いは、病院によって異なります。
Q. 法人を作ったあとでやめたくなったら?
A. 清算(解散)の手続きが必要で、費用と手間がかかります。短期間での運営見込みしかない場合は、設立自体を慎重に判断してください。
まとめ
来年1月から法人で収入を受け取りたいなら、10〜11月に勤務先の規程確認と税理士選びを始めるのが、設立日から逆算した現実的な期限です。勤務医が設立できるのは合同会社・株式会社で、法人に入れられるのは医療行為以外の収入のみです。副収入(利益)が年300万円前後以上あり、契約主体を法人に切り替えられる場合に、検討する価値があります。給与のみの場合は、基本の制度を使い切ることを優先してください。法人化は、課税のタイミングと税率を設計する手段であり、出口まで含めて判断することが大切です。
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