
医師が新規開業で失敗しない資金計画
クリニックの新規開業を検討する医師にとって、最大の課題の一つが資金計画の策定です。診療科目や開業形態によって必要資金は大きく異なり、一般的に5,000万円から1億円程度の開業資金が必要とされています。
日本政策金融公庫総合研究所が2024年11月に公表した「2024年度新規開業実態調査」によれば、新規開業企業全体の平均開業費用は985万円、平均資金調達額は1,197万円でした。
ただし、医療機関の開業は一般的な事業と比較して高額な医療機器や施設が必要となるため、より綿密な資金計画が求められます。
本記事では、クリニック開業における失敗しない資金計画の立て方について、実践的な観点から解説します。
目次[非表示]
- 1.クリニック開業に必要な資金の全体像
- 1.1.開業資金の基本構成
- 1.2.診療科目別の開業資金の目安
- 2.開業資金の詳細な内訳
- 3.自己資金の準備
- 3.1.必要な自己資金の目安
- 3.2.自己資金が少ない場合の対応
- 4.資金調達の方法
- 4.1.日本政策金融公庫からの融資
- 4.2.民間金融機関からの融資
- 4.3.信用保証協会保証付融資(制度融資)
- 4.4.医師会・地方自治体からの融資
- 4.5.親族からの援助
- 4.6.補助金・助成金の活用
- 5.事業計画書の作成
- 5.1.事業計画書の重要性
- 5.2.事業計画書に含めるべき内容
- 5.3.事業計画の実現可能性
- 6.失敗しない資金計画のポイント
- 6.1.返済期間を重視する
- 6.2.開業資金は多めに見積もる
- 6.3.運転資金を十分に確保する
- 6.4.診療報酬改定への対応
- 6.5.固定費の管理
- 6.6.融資を受けるタイミング
- 6.7.資金使途の厳守
- 7.開業資金を抑える方法
- 7.1.クリニック継承の検討
- 7.2.医療機器・設備のリース活用
- 7.3.医療モールへの入居
- 7.4.段階的な設備投資
- 8.開業後の資金管理
- 8.1.キャッシュフロー管理の重要性
- 8.2.借入金の返済管理
- 8.3.税務管理
- 9.まとめ
クリニック開業に必要な資金の全体像
クリニック開業に必要な資金は、その構成要素と診療科目によって大きく変わります。ここでは、開業資金の基本的な構成と診療科目別の目安について解説します。
開業資金の基本構成
クリニックの開業資金は、大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分類されます。設備資金とは、物件取得費・内装工事費・医療機器購入費など、開業時に一度だけ発生する費用のことです。一方、運転資金は家賃・人件費・医薬品費など、事業運営のために継続的に必要となる資金を指します。
日本政策金融公庫の融資制度では、設備資金として最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)の融資を受けることが可能です。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内と定められており、開業後2年以内は元本返済を据え置いて利息のみの支払いとすることもできます。
診療科目別の開業資金の目安
診療科目によって必要な医療機器や施設の規模が異なるため、開業資金には大きな差が生じます。
精神科・心療内科の場合、開業資金の目安は1,500万円から3,500万円程度です。診察のための特別な設備が少なく、全ての診療科の中でも比較的開業資金を抑えられる診療科目といえます。
一般内科では、戸建て開業の場合で2,000万円程度、テナント開業の場合は6,000万円から8,000万円程度が必要です。内科でも専門分野によって必要な機器が異なるため、消化器内科や循環器内科などでは追加の設備投資が求められます。
小児科の開業資金は5,500万円程度が目安です。キッズルームや駐車場の確保が望ましく、テナントよりも戸建て開業が理想的とされています。
整形外科は、検査やリハビリに高額な医療機器が必要となるため、5,000万円から1億円以上の開業資金が必要です。広いリハビリスペースの確保や理学療法士などの人材配置も求められ、不動産費用や人件費も高くなる傾向にあります。
眼科の開業資金は、5,000万円から7,500万円程度が目安です。白内障手術やレーシック手術に対応する場合、手術のための医療機器や手術室の確保が必要で、さらに数千万円の資金が追加で求められます。
産婦人科では、6,000万円程度が必要な目安です。不妊治療にも対応する場合はさらに設備投資が必要となり、分娩にも対応できる規模にする場合は開業資金が大幅に増加します。
泌尿器科の開業資金は、3,000万円から5,000万円程度です。膀胱鏡や尿分析装置などの設備代が中心で、他科と比較すると比較的抑えられる傾向にあります。
耳鼻咽喉科では、4,000万円から8,000万円程度の開業資金が必要です。耳鼻咽喉科用ユニットや顕微鏡、防音室などの設備が求められ、内視鏡システムやX線検査装置を導入する場合はさらに高額になります。
皮膚科は、保険診療がメインであれば3,500万円から6,000万円程度の開業資金で開業可能です。ただし美容皮膚科を専門とする場合は高額なレーザー機器の導入が必要で、開業資金が1億円前後かかるケースもあります。
開業資金の詳細な内訳
開業資金は複数の費用項目で構成されています。ここでは、物件取得費用、内装工事費、医療機器・設備費、運転資金について、それぞれ詳しく説明します。
物件取得費用
賃貸物件を利用する場合、敷金・礼金・仲介手数料・前払い賃料などが必要です。地域によって敷金・保証金の条件は異なりますが、一般的に賃料の6ヶ月分から12ヶ月分程度を見込んでおく必要があります。
戸建てのクリニックを開業する場合は、土地の購入費や建築費用がかかります。立地条件によって大きく変動するため、開業候補地域の不動産相場を事前に調査することが重要です。
最近では、契約後に家賃を支払わなくてもよい1、2ヶ月のフリーレント期間を設定してくれる物件もあります。融資申込みは物件契約後でなければできないため、内装工事開始までの期間の賃料負担を軽減できるフリーレント交渉は検討に値するでしょう。
内装工事費
クリニックの内装工事では、医療法やバリアフリー法など各種法令に準拠して設計する必要があるため、一般の事業所や店舗の内装工事よりも高額になる傾向があります。クリニックの内装工事実績が豊富な業者への依頼が安心です。
テナント開業の場合、内装設計の自由度が限られる可能性があるため、医療機器の配置や動線を考慮した物件選定が重要となります。
医療機器・設備費
医療機器や設備の購入費用は、診療科目によって大きく異なります。電子カルテ、パソコン、施術台、椅子、病床、消耗品などの基本的な設備に加えて、診療科目特有の専門機器が必要です。
高額な医療機器については、購入とリースのどちらを選択するかが重要な判断ポイントとなります。リースの場合、初期費用を抑えられるメリットがありますが、長期的には購入よりも総支払額が高くなることが一般的です。また、医療機器の技術革新は早いため、将来的な買い替えを見据えた選択が求められます。
大病院から独立開業する場合、それまで診療に使っていた医療機器をクリニックでも導入したいと考えがちですが、本当に必要かどうかを冷静に検討する必要があります。高額な医療機器を設置するために広いスペースを確保し、高い賃料やリース料、技師の人件費で経営が悪化してしまう例も少なくありません。
運転資金の確保
開業当初は十分な数の患者を獲得できないことが想定されますし、診療報酬の7割は診療後2ヶ月後の入金です。しかし、それまでにかかった人件費や賃料などの固定費、医薬品費などは先に支払う必要があります。
順調に患者が増え、医療収益が増加しても診療報酬の入金までの時差があるため、クリニック経営では開業初期だけでなく、常に必要な運転資金を手元資金として確保しておく必要があるでしょう。そのため、最低でも6ヶ月分の運転資金を準備することが推奨されます。
自己資金の準備
開業資金のすべてを融資で賄うことは難しく、一定の自己資金が必要です。ここでは、必要な自己資金の目安と、自己資金が少ない場合の対応策を説明します。
必要な自己資金の目安
開業資金の全額を自己資金で賄える医師はほとんどいません。一般的に、開業資金の1割から2割程度の自己資金を準備することが望ましいとされています。一般的なクリニックであれば、開業資金は5,000万円から1億円程度となるため、1,000万円程度が自己資金の一つの目安です。
ただし、金融機関の融資審査において重視されるのは、自己資金の金額そのものよりも事業計画の内容と経営者としての人格といえます。「融資した金額を遅延なく返済してもらえるか」という観点から、実現可能な事業計画と医師としての信頼性が評価されます。
自己資金が少ない場合の対応
診療科目によっては、自己資金が少なくても開業できるケースがあります。精神科・心療内科や一般内科の戸建て開業で、すでに土地を確保できている場合や保証人を立てられる場合などです。
自己資金が少ない場合でも、詳細な事業計画書を作成し、金融機関の信頼を獲得することで融資を受けられる可能性があります。開業後の収支予測や返済計画を具体的な数値で示すことが重要です。
資金調達の方法
クリニック開業の資金調達には、複数の選択肢があります。ここでは、日本政策金融公庫、民間金融機関、信用保証協会、医師会・地方自治体、親族からの援助、補助金・助成金について解説します。
日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫は、財務省が管轄する政府系金融機関で、創業者向け融資における代表格といえます。クリニック開業でまず検討すべき融資先です。
個人事業主を対象とする「新規開業資金」(2025年3月から「新規開業・スタートアップ支援資金」に名称変更)では、融資上限が設備資金7,200万円(うち運転資金4,800万円)、返済期間は設備資金が20年以内(うち運転資金10年以内)です。
融資後2年以内は元金返済を据え置き、利息のみの支払いとすることも可能となっています。担保や保証人の有無によって金利は異なりますが、基本的に低金利かつ固定金利で融資を受けられるのが特徴です。女性または35歳未満か55歳以上で開業する場合は、金利優遇が受けられます。
デメリットとしては、民間金融機関に比べて審査に時間がかかることが挙げられます。開業スケジュールに余裕を持って申し込むことが必要です。
民間金融機関からの融資
大手銀行や地方銀行、信用金庫などの民間金融機関でも、クリニック開業向けの融資制度を設けているところが増えています。「開業医ローン」「クリニックアシスト」など、新規開業に特化した商品も用意されています。
地方銀行は大手銀行と比較して低金利かつ審査に通りやすい傾向にあり、開業時に利用しやすい選択肢です。また、スタッフ研修など融資以外のサポートを提供してくれる金融機関もあります。
民間金融機関からの融資を受けるためには、原則として担保や保証人が必要となりますが、最近では無担保の開業サポートプランも用意されています。
信用保証協会保証付融資(制度融資)
各都道府県の信用保証協会が融資を保証することにより、創業者がスムーズに融資を受けられる仕組みとして「信用保証協会保証付融資(マル保融資)」があります。そのうち国・県・市町村などによって制定されたものが「制度融資」です。
信用保証の料金を支払うことで、低利など好条件で融資を受けられるのが特徴ですが、別途保証料が発生します。審査に時間がかかる傾向があるため、開業スケジュールを考慮した申込みが必要です。
医師会・地方自治体からの融資
医師会では、クリニックの開業支援ローンを用意しています。設備資金や運転資金など多額の費用を借り入れできますが、医師会への加入が必須条件です。
地方自治体も「制度融資」を行っている場合があり、地域の医療充実を目的とした支援制度を設けている自治体もあります。開業地域の自治体に確認することをお勧めします。
親族からの援助
金銭的に余裕のある親族がいる場合、開業資金を援助してもらうことも選択肢の一つです。ただし、援助を受けると贈与税がかかってくる可能性があるため、事前に税理士に相談し、適切な対策を講じる必要があります。
貸し借りの形式にする場合は、金銭消費貸借契約書を作成し、適切な利息を設定することで贈与とみなされるリスクを回避できます。
補助金・助成金の活用
クリニックの開業に活用できる補助金・助成金制度があります。代表的なものとして、「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金」や「IT導入補助金」などが挙げられます。
地方自治体ごとに創業者向け補助金制度を設けているケースもあるため、開業地域の自治体ホームページをこまめにチェックすることが重要です。
補助金・助成金は基本的に返済不要ですが、審査を通過する必要があり、用途制限に違反すると返還が求められる場合があります。また、交付決定から支給までに数ヶ月から数年かかることもあるため、開業資金のメインとして計画するのではなく、補完的な位置づけで検討すべきです。
事業計画書の作成
融資を受けるためには、説得力のある事業計画書が不可欠です。ここでは、事業計画書の重要性、含めるべき内容、実現可能性の示し方について解説します。
事業計画書の重要性
融資を受けるためには、綿密な事業計画書の作成が必要不可欠です。融資する側としては、返済能力があるかの判断が必要となるため、経営実績・担保・保証能力・事業計画書などが融資判断の材料となります。
新規開業の場合は経営実績がないため、特に事業計画書が重要な評価ポイントです。収入と経費の計画を立て、医療損益や資金繰りのシミュレーションを行い、返済可能な事業計画を作成することが求められます。
事業計画書に含めるべき内容
事業計画書には、以下の内容を含める必要があります。
- 開業の動機と診療方針:なぜこの地域でこの診療科目のクリニックを開業するのか、どのような医療を提供するのかを明確に記載します。
- 市場分析:開業予定地域の人口動態、年齢構成、競合クリニックの状況などを調査し、患者数の見込みを論理的に説明します。
- 収支計画:月次・年次での売上予測と経費予測を具体的な数値で示します。診療報酬の入金時期と支払いのタイミングを考慮した資金繰り表も作成します。
- 返済計画:融資を受けた場合の返済スケジュールと、それに対応できる収支計画を示します。
- リスク対策:患者数が計画通りに集まらなかった場合の対応策や、診療報酬改定への対応方針なども記載します。
事業計画の実現可能性
金融機関の融資担当者との面談では、提出した事業計画書の内容や開業の目的、資金の使途、今後の経営ビジョンについて詳しく説明を求められます。
事業計画に基づいた説明を準備し、質疑応答にしっかり対応できるようにしておくことが重要です。特に、資金計画や収支予測に関する質問には、具体的な根拠を持って回答できるようにしましょう。
明確な医院経営のビジョンを数値化すること、そして実行可能な計画を立てることが、融資を受けるための事業計画として評価されます。
失敗しない資金計画のポイント
資金計画の失敗を防ぐためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。ここでは、返済期間、開業資金の見積もり、運転資金、診療報酬改定、固定費管理、融資のタイミング、資金使途について説明します。
返済期間を重視する
利率を重視せず、返済期間を重視することが重要です。返済期間が長ければ月々の返済額が少なくなり、開業初期の資金繰りに余裕が生まれます。
利率を優先して返済期間を短くすると、数年後に資金繰りがショートする可能性があるため、できる限り返済期間を長くすることが推奨されます。日本政策金融公庫の融資では、設備資金の返済期間を最長20年まで設定可能です。
開業資金は多めに見積もる
融資を申し込んだ場合、審査に通ったとしても希望通りの条件で資金を借りられるとは限りません。開業資金を多めに見積もって希望金額を提示したほうが良いケースもあります。
開業後に「資金が足りなくなった」「経営が立ち行かなくなった」といった事情で融資を受けようと思っても、同じように融資を受けることは容易ではありません。経営が悪化した状態では、返済能力が低いと判断されて審査に通らない可能性が高くなります。
運転資金を十分に確保する
開業準備や設備投資に資金を使いすぎて、運転資金が不足するケースは失敗例の典型です。経営が軌道に乗るまでには1年から2年かかることを想定し、その間の運転資金を手元資金として確保しておく必要があります。
診療報酬は審査支払機関からの入金が数ヶ月先になるケースが多く、人件費や医薬品費を支払うと手元資金が不足しやすいため、あらかじめ十分な運転資金を準備することが重要です。
診療報酬改定への対応
2年に1回(薬価は2021年度から毎年)実施される診療報酬改定にも注意が必要です。自院にどのような影響があるのか、施設基準は何があるのかなど、事前に確認しておく必要があります。
診療報酬改定によって収入が減少する可能性も考慮に入れ、余裕を持った資金計画を立てることが賢明です。
固定費の管理
クリニックの経費で大きいのは人件費と賃料です。黒字経営の目安として、人件費を収益の50%以下、賃料を10%以下になるように事業計画を作ることが推奨されます。
個人クリニックでは、人件費に院長の給与は含みませんが、事業計画上は院長の給与相当額と借入返済額を加えて収支差額が黒字になるように支出総額を算出します。
人件費については、給与だけでなく社会保険や福利厚生費も考慮しなければなりません。個人医院で常勤スタッフ5名未満の場合は社会保険に加入する義務はありませんが、看護師などの医療スタッフは社会保険完備の病院から転職することが多いので、社会保険未加入の個人医院は採用が難しくなります。
融資を受けるタイミング
融資を申し込めるタイミングは、一般的に「クリニックを開業する物件の契約締結後」です。物件を探すだけで時間がかかる可能性もあります。また、物件を取得したら内装工事に資金が必要になるため、余裕のあるスケジュールを組むことが大切です。
融資審査には一般的に約2週間から1ヶ月程度かかります。日本政策金融公庫の場合は、民間金融機関よりも審査に時間を要する傾向があるため、開業スケジュールを逆算して早めに申し込むことが重要です。
資金使途の厳守
開業資金として融資してもらったお金は、申告した目的以外に使用することはできません。目的外使用が発覚した場合、即返済を求められるといったペナルティが科されることもあります。
開業資金を抑える方法
初期投資を抑えることで、開業後の資金繰りに余裕が生まれます。ここでは、クリニック継承、リース活用、医療モール、段階的な設備投資について紹介します。
クリニック継承の検討
既存のクリニックを継承する場合、内装や医療機器などがすでに整っているため、新規開業と比較して初期投資を大幅に抑えられる可能性があります。
近年、後継者不足や経営悪化などの理由により、クリニックのM&Aが増加している傾向があります。継承候補のクリニックがある場合は、新規開業との比較検討が必要です。
医療機器・設備のリース活用
高額な医療機器については、リースを活用することで初期費用を抑えられます。特に技術革新が早い機器については、リースにすることで常に最新の設備を導入できる点もメリットです。
ただし、長期的な総支払額は購入よりも高くなることが一般的ですので、機器ごとに購入とリースのどちらが有利かを検討する必要があります。
医療モールへの入居
医療モールに入居する場合、待合室や受付スペースを共用できたり、医療機器を共同利用できたりするケースがあります。これにより、内装費用や設備投資を抑えられる可能性もあるでしょう。
また、他の診療科との連携により患者紹介が期待できるメリットもあります。
段階的な設備投資
開業当初から全ての医療機器を揃えるのではなく、診療を進めながら必要に応じて段階的に設備投資を行う方法もあります。
本当に必要な機器かどうかを冷静に考え、開業時は最小限の設備で開始し、経営が安定してから追加投資を行うことで、初期の資金負担を軽減できます。
開業後の資金管理
開業後も継続的な資金管理が経営の安定に不可欠です。ここでは、キャッシュフロー管理、借入金の返済管理、税務管理について解説します。
キャッシュフロー管理の重要性
開業後は、キャッシュフロー(資金の流れ)を常に把握することが重要です。診療報酬の入金と支払いのタイミングにずれがあるため、帳簿上は黒字でも資金不足に陥る可能性があります。
月次での資金繰り表を作成し、将来の資金需要を予測することで、資金ショートを未然に防げます。
借入金の返済管理
融資を受けた場合、返済は長期にわたります。返済計画通りに進めるためには、安定した収益の確保が不可欠です。
返済が滞ると、金融機関との信頼関係が損なわれ、将来的な追加融資が困難になる可能性があります。確実に返済できる計画を立て、それを守ることが重要です。
税務管理
個人医院では、収支差額から所得税などの税金を支払い、借入金を返済した残りが院長の収入となります。適切な税務処理を行わないと、予想外の税負担が発生する可能性があります。
開業前から税理士に相談し、税務面でのアドバイスを受けることが重要です。医療機関に特化した税理士であれば、診療報酬の特性を理解した上での助言が期待できます。
まとめ
クリニックの新規開業における資金計画は、成功の鍵を握る重要な要素です。診療科目や開業形態によって必要資金は大きく異なりますが、綿密な計画と適切な資金調達により、安定した開業を実現できます。
重要なポイントをまとめると以下の通りです。
まず、診療科目に応じた適切な開業資金の見積もりを行うことが必要です。設備資金だけでなく、十分な運転資金を確保することが失敗を防ぐ鍵となります。
次に、日本政策金融公庫を中心とした複数の融資先を検討し、最も有利な条件を選択することです。返済期間を重視し、月々の返済負担を軽減することで、開業初期の資金繰りに余裕を持たせることができます。
また、実現可能な事業計画書を作成し、金融機関の信頼を獲得することが融資成功の鍵です。市場分析に基づいた患者数予測と、それに基づく収支計画を具体的に示すことが重要となります。
開業資金は多めに見積もり、開業後の追加融資が困難であることを念頭に置いた計画を立てる必要があります。
固定費の管理を徹底し、人件費と賃料のバランスを適切に保つことで、黒字経営の基盤を作ります。
補助金や助成金も活用しつつ、メインの資金源としては融資を中心に計画することが現実的です。
開業後は、キャッシュフロー管理と確実な返済を心がけ、金融機関との良好な関係を維持します。
必要に応じて医療機関に精通した税理士や開業コンサルタントの支援を受けることで、より確実な資金計画が可能となります。
適切な資金計画により、開業後の経営不安を最小限に抑え、医療提供に専念できる環境を整えることが、患者に質の高い医療を提供し続けるための基盤です。慎重かつ綿密な準備により、失敗しないクリニック開業を実現してください。
※本記事の内容は、作成時点の制度・規制・規約・市況などの情報を基にして作成しております。改正等により記載内容の実施・実行・対応などが行え場合がございますので予めご了承ください。最新情報に基づいた内容などについては、「ご相談・お問い合わせ」ページからご確認いただけますと幸いです。 |










